長崎地方裁判所大村支部 事件番号不詳 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(罪となるべき事実)
被告人は、飲酒酩酊して他人に暴行傷害を加える酒癖を有する者であるが、自己のかかる酒癖を知悉し、飲酒酩酊の末暴行傷害の結果を惹起すべきことを意識しながらこれを認容して敢て飲酒し酩酊の上
第一、昭和四十三年八月二十九日午前十一時頃大村市玖島郷一二六番地の第二酒類販売業平地健吉方店舗において大浦計雄(六十二年)に対し、足を踏んだと因縁をつけ、同人を両手で横抱きにして担ぎあげた上土間に落すなどの暴行を加え、よつて同人に治療に約二週間を要する胸部打撲傷の傷害を負わせ
第二、同年九月二十七日午後十一時三十分頃、大村市木場郷二四一六番地の自宅において、大村タクシー運転手中橋峰吉(当三十八年)に対し、やにわに顔面を手拳で殴打した上両足で首を締めつけ、手拳で頭部を殴打するなどの暴行を加え、よつて同人に治療に約七日間を要する顔面、両側頸部、前胸部打撲挫傷の傷害を負わせ
たものである。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は判示第二の事実につき被告人は当時酒に酔い心神耗弱状況にあつたと主張し、被告人が右犯行当時酒に酔い酩酊していたこと判示のとおりであるけれども、判示証拠によれば、被告人はこれまでも何回となく酒に酔つて他人に暴行・傷害を加えており、時には刑事事件として罰金刑に処せられたことも一再ならずあること及び被告人自身も自己がかかる酒癖を有することを知悉していたことが認められるので、被告人が真に他人に暴行傷害を与えまいと思うならば当然に飲酒を慎しむべきであり、これを慎しまないで敢て飲酒し、その結果右犯行に至るときは、その犯行の結果はその飲酒に当り被告人が当然予見していたところというべく、右結果発生当時の被告人の心神の状態がたとえ医学的に心神耗弱というべき状況にあつたとしても、被告人の刑事責任能力を考える上においては、たんに被告人の右医学的心理状況のみに局限せず、右飲酒に当り被告人が予見したところをも包括して判定すべきものと考えるので、結局本件被告人の行為は刑法にいわゆる心神耗弱者の行為に当らないものと考える。それ故弁護人の主張は採用しない。(小島強)